制作の変化

制作

DAWの革新性

DAW(HDR)の登場によって、マルチトラックでパートごとに録音するような場合、従来の「録音するときは既に録音されている自分のパートは上書きされて消える」という録音方式から、「録音しても前のデータは背面に残る」非破壊レコーディングへと変わった。テイクを重ねたいときなど、前のテイクを残しつつどんどん違ったテイクも試せるので、自由度が格段に向上した。演奏または歌唱者側からすれば、レコーディング時の精神的圧迫の軽減も期待できる。録音されたデータはコンピューター画面上では「リージョン」という波形のかたまりで表示され、波形の色及び高さから幅まで編集しやすい形に自由に変えられる。従来のテープベースのレコーディングにおいては、記録された音声は、オーディオ入出力を示すメーターと耳により時間経過に従って確認するしかなかった。このリージョンにより、音声の時系列変化を視覚的・図形的に扱えるようになり、編集などが格段に効率的になった。
録音出来る最大トラック数も、セッションのサンプリング周波数やビット数により変化はあるものの、機種によっては44.1KHz/16bitで最大128トラックを超える。必要に応じてシンクロナイザーで複数台を同期させていたテープベース録音とは、利便性の面で圧倒的な違いがある。その事によって、多数の音素材を扱う映画の世界への普及も進んだ。映画制作においては、「台詞」「環境音」「BGM」「SE」など、様々な音を種々のシーン毎に編集する必要がある。このため、時系列変化を視覚化し編集できるというメリットは、映像との同期編集が容易であることとも相まって、DAWの普及を後押しした。
従来、プロフェッショナル用のレコーディングシステム構築には億単位の高額な投資が必要であった。しかし、DAWを導入することにより、レコーダーやミキシング・コンソールから各種エフェクターまで、スタジオ設備一式が数百万円程度で揃ってしまう。また、機材数は減少し、メンテナンスが圧倒的に省力化した。これらによるコストダウンにより、業務用スタジオへの導入が相次いだばかりでなく、アーティストによるプライベートスタジオの構築も比較的容易になった。

DAW(HDR)登場による制作過程における環境変化(プリ/ポスト・プロダクション、オーサリング、MA)

プリ・プロダクション

プリプロの音源をそのまま本番レコーディングまで移行できるようになった。すなわち、楽曲制作の段階から、技術さえあれば完パケに耐えうるトラック制作さえも可能である。アーティストの発する演奏や歌唱あるいはアレンジの要を崩さないため、それ以前は遮断され気味だったプリプロと本番との連携が保てるようになった。

ポスト・プロダクション

録音編集作業からミックスを終えて持ち込まれたファイルも、Pro Toolsのセッション・ファイルのままだと、ポスト・プロダクションの現場における更なる編集やミックスの修正ができるため、今までのテープベースとは全く違う扱いが可能である。

オーサリング

前出「ポスト・プロダクション」同様に作業現場直前まで編集など可能なので、必要に応じた変更がある場合には機能的に作業できる。

MA

この現場においてもセッション・ファイルのまま持ち込むことで、サイズ変更やタイミング修正などの厳密な時間軸合わせ編集が容易にできるようになった(互換性に関しては後述する)。違う場面との編集による音的な違和感も「クロス・フェード」を上手く掛けることにより違和感なく処理する事ができ、仕上がりが格段に向上する。映像用同期信号との同期に関しても様々なフォーマットに対応できるため、映像との親和性はかなり高まっている。